イノシシは、鼻を使って地面を掘り、農地や山林を広く移動するイノシシ科の大型哺乳類です。

山林、竹林、耕作放棄地、河川敷などを利用し、農地や住宅地の近くでも確認されることがあります。
農地では農作物を食べるほか、地中の根やミミズ、昆虫などを探すため、畑、畦、法面などを広く掘り返すことがあります。
イノシシの特徴
体は前半部分が太く、頭部から肩にかけて頑丈な体つきをしています。
体の大きさには地域、性別、年齢による差があります。ニホンイノシシの雄では、頭胴長が110~160cm、体重が50~150kg程度になる例もあり、100kgを超える個体もいます。
体毛は黒褐色や茶褐色で、硬い毛に覆われています。
鼻先が長く、鼻で土や物を押し上げる力があります。地面を掘り返して植物の根、地下茎、ミミズ、昆虫などを探します。
雑食性ですが、植物を中心に利用します。タケノコ、ドングリ、果実、植物の根や地下茎のほか、イネ、野菜、イモ類、果樹なども食べます。
人の影響が少ない場所では昼間にも活動します。住宅地や農地周辺では、人を避けて夕方から夜間、早朝に活動することがありますが、昼間に出没する場合もあります。
イノシシの主な痕跡
足跡
イノシシの足跡には、次のような特徴があります。
- 中央に2本の蹄の跡が残る
- 蹄の先端は丸みを帯びることがある
- 足跡は比較的幅広く見える
- 地面が柔らかい場合は、後方に副蹄の跡が残る
- 同じ通路を繰り返し利用すると、はっきりした獣道ができる
ただし、地面の状態によって副蹄が残らないこともあります。足跡だけでイノシシと断定せず、掘り返し、ぬた場、食害、移動経路などを組み合わせて確認します。
掘り返し
イノシシは、鼻を使って地面を掘り返します。
庭、畑、畦、法面、竹林、林道などが、耕したように広く掘り返されることがあります。
小さな穴が点在する場合もありますが、アナグマの掘り跡と比べて、広い範囲の土が大きく動かされることがあります。
地中の根、地下茎、タケノコ、ミミズ、昆虫などを探した跡である可能性があります。
ぬた場
イノシシは、体を冷やしたり、皮膚についた寄生虫などを落としたりするため、泥の中に体を沈めることがあります。
イノシシが泥浴びに利用する場所を「ぬた場」と呼びます。
水田、休耕田、水路脇、ため池周辺、林内の水がたまりやすい場所などに、体を転がしたような跡が残ります。周辺の木や電柱などに、泥や体毛が付着している場合もあります。
獣道
山林、藪、耕作放棄地、水路、河川敷などから農地へ向かう場所に、繰り返し利用される獣道ができることがあります。
草が一定方向に倒れている、地面が踏み固められている、同じ場所に足跡が続いている場合は、移動経路として利用されている可能性があります。
柵を設置する場合は、被害場所だけでなく、獣道や侵入方向を確認することが重要です。
イノシシによる主な被害
農地・果樹への被害
イノシシは雑食性で、植物の根や果実、農作物、ミミズ、昆虫などを食べます。
農地では、次のような被害が起こることがあります。
- イネ、イモ類、豆類、トウモロコシなどの食害
- スイカ、カボチャ、野菜などの食害
- クリ、カキ、ブドウ、モモなどの果実の食害
- タケノコの掘り起こし
- 水田や畑の踏み荒らし
- 稲や野菜の踏み倒し
- 畦や法面の掘り返し
- マルチシートや防護ネットの破損
- 柵の下を押し上げたり掘ったりして侵入する
- 水路やため池の堤体を掘り返す
農作物を食べるだけでなく、歩き回る、地面を掘る、泥浴びをすることによって、作物や農業用施設が損傷する場合があります。
住宅周辺・生活環境への影響
住宅周辺では、次のような状況が見られることがあります。
- 庭、芝生、花壇の掘り返し
- 家庭菜園への侵入
- 生ごみやコンポストへの接近
- 屋外に置かれたペットフードへの接近
- 放置された果実や野菜を食べる
- 道路や住宅地への出没
- 車両との衝突
- 人や犬との接触
イノシシを見かけただけで、直ちに被害が発生しているとは限りません。まずは、足跡、掘り返し、食害、移動経路、餌になるものなどを確認します。
ただし、住宅地に迷い込んだ個体、けがをした個体、犬に追われている個体は興奮している可能性があります。近づいたり、追い立てたりしないでください。
イノシシへの対策
1.餌になるものを取り除く
イノシシを住宅や農地に引き寄せるものを減らします。
- 生ごみを屋外に放置しない
- ペットフードを夜間に残さない
- 落果や収穫残さを片付ける
- 廃棄する野菜や果実を畑に置かない
- 収穫しない果実を木に残さない
- コンポストやごみ容器のふたを固定する
- 墓地の供物や食品を放置しない
人が食べないものや廃棄するものでも、イノシシにとっては餌になる場合があります。
餌を得られる状態が続くと、安全な餌場として学習し、同じ場所へ繰り返し現れる可能性があります。
2.侵入場所を確認する
農地、防護柵、住宅周辺を確認し、次のような場所を探します。
- 柵と地面の隙間
- 柵が押し上げられた場所
- 金網やネットの破損
- 地面が掘り返された場所
- 繰り返し足跡が付いている通路
- 草が一定方向に倒れている場所
- 山林、竹林、藪、水路から続く獣道
- 出入口や農道との接続部分
確認した場所は、被害場所全体が分かる写真と、足跡や破損部分の写真を残しておくと、その後の比較や相談に役立ちます。
3.柵の下部を補強する
イノシシは、柵を飛び越えるだけでなく、地面との隙間から侵入したり、鼻で柵を押し上げたりすることがあります。
ワイヤーメッシュ柵などを設置する場合は、地面との隙間をなくし、下部を支柱や固定具で補強します。
地面に凹凸がある場所、沢や水路との交差部分、出入口などは隙間ができやすいため、重点的に確認します。
掘り返しが続く場所では、金網を外側の地面へ折り返す、または一部を地中へ入れるなど、下からの侵入を防ぐ対策を検討します。
柔らかいネットだけでは、鼻で押し上げられたり、破られたりする場合があります。
4.電気柵を適切に設置する
イノシシ用の電気柵は、一般的に地面から約20cmと40cmの高さに電線を張ります。
イノシシは、柵を確認するときに鼻先を近づける傾向があります。最下段の電線が高すぎると、電線に触れずに下をくぐられる可能性があります。
電気柵では、次の点を確認します。
- 電線の高さが適切か
- 地面との間に大きな隙間がないか
- 草や枝が電線に触れていないか
- 十分な電圧が保たれているか
- アースが正しく設置されているか
- 出入口を閉め忘れていないか
- 電源が常時入っているか
- 支柱や電線が倒れていないか
草が電線に触れると漏電し、十分な効果が得られない場合があります。設置後も、草刈り、電圧確認、破損部分の補修を継続します。
電気柵は、専用の電気柵用電源装置を使用し、危険表示などの安全対策を行ってください。
5.隠れ場所や移動経路を減らす
農地と山林の間に藪や背の高い草があると、イノシシが姿を隠したまま農地へ接近しやすくなります。
次のような環境を確認します。
- 管理されていない竹林
- 草木が密生した耕作放棄地
- 農地周辺の藪
- 河川敷や水路沿いの繁茂した草
- 林縁から農地まで続く隠れ場所
- 放置された資材や倒木
草刈りや藪の整理によって見通しを確保し、人が利用している場所と山林との間に緩衝となる空間を作ります。
ただし、広い範囲を一度に整備することが難しい場合は、被害農地の周辺や主要な侵入経路から優先して行います。
6.見つけても追い立てない
イノシシを見つけた場合は、大声を出す、物を投げる、棒で追う、犬をけしかけるなどの行動をしないでください。
イノシシが興奮すると、牙を鳴らす、毛を逆立てる、地面をひっかくなどの行動をする場合があります。
落ち着いて距離を取り、イノシシの進路をふさがないようにします。建物、塀、車など、イノシシから見えない安全な場所へ避難してください。
小さなウリ坊だけが見えている場合でも、近くに母親がいる可能性があります。近づいたり、触ろうとしたりしないでください。
安全な場所へ避難してから、必要に応じて警察や市町村へ連絡してください。
7.捕獲は自己判断で行わない
野生鳥獣の捕獲や殺傷は、適法な狩猟や許可を受けた捕獲などを除き、原則として規制されています。
市販のわなを自己判断で設置したり、捕獲した個体を別の場所へ運んだりしないでください。
狩猟として捕獲する場合にも、狩猟免許、狩猟者登録、狩猟期間、区域、使用できる猟具などの条件があります。
被害防止を目的とした捕獲が必要と考えられる場合は、行政機関やけもの相談所へ相談してください。
捕獲だけを行っても、餌、隠れ場所、侵入しやすい柵などが残っていれば、別の個体が同じ場所を利用する可能性があります。捕獲、侵入防止、誘引物管理、環境整備を組み合わせることが重要です。
シカとの見分け方
イノシシとシカは、どちらも2本の蹄の跡を残すため、足跡だけでは見分けにくいことがあります。
見分ける際は、足跡だけでなく、掘り返し、食害、ふん、移動経路、ぬた場、センサーカメラの映像などを組み合わせて確認します。
特に、次の特徴がある場合はイノシシの可能性があります。
- 体が太く、頭部から肩にかけて頑丈である
- 鼻先が長い
- 足跡が比較的丸く、幅広く見える
- 柔らかい地面に副蹄の跡が残っている
- 地面が広い範囲で掘り返されている
- 水辺にぬた場がある
- 柵の下部が押し上げられている
- 畦や法面が掘り崩されている
シカでは、足跡が比較的細長く、先端が尖って見える場合があります。また、植物の葉や枝の食害、樹皮を剝いだ跡などが見られることがあります。
一つの特徴だけで動物種を断定しないでください。
相談するときに確認したいこと
イノシシと思われる動物や痕跡を見つけた場合は、可能な範囲で次の情報を記録してください。
- 発見した日時と場所
- 動物の写真や動画
- 頭数とおおよその大きさ
- 移動した方向
- 足跡や掘り返しの写真
- 被害を受けた作物や場所
- 柵やネットの破損状況
- 出入りしていると思われる経路
- 被害が始まった時期
- 発生する時間帯や頻度
- 周辺の山林、竹林、藪、水路の状況
- これまでに行った対策
痕跡を撮影するときは、足跡などを近くから撮影するだけでなく、被害場所全体と周辺環境が分かる写真も残してください。
危険な場所へ入ったり、動物へ近づいたりして撮影する必要はありません。
イノシシか分からない場合
動物の姿を直接確認できなくても、足跡、掘り返し、食害、ふん、ぬた場、侵入場所などから、原因となる動物を整理できる場合があります。
けもの相談所では、写真や被害状況を確認し、必要に応じて現地確認やセンサーカメラによる調査を行います。