ツキノワグマは、本州や四国の一部に生息するクマ科の大型哺乳類です。

山林を中心に生活していますが、食べ物を求めて農地、果樹園、河川沿い、住宅地周辺などへ現れることがあります。
埼玉県では、主に西部、北部、秩父地域で出没が確認されています。

ツキノワグマによる被害では、農作物や果実の食害だけでなく、人との突然の遭遇による人身被害を防ぐことが最優先となります。

ツキノワグマの特徴

成獣の頭から胴までの長さは、おおむね120~145cm程度です。
体重は個体差がありますが、埼玉県の資料では70kg前後の個体が多いとされています。

体は黒色や黒褐色の毛に覆われ、胸に白い三日月形やV字形の模様が見られることがあります。この模様の形や大きさには個体差があります。

耳は丸く、尾は短いため、離れた場所からはほとんど見えません。

前足が発達しており、長く丈夫な爪があります。木登りが得意で、果実や木の実を食べるために樹上へ登ることがあります。

主に植物を食べますが、昆虫や小動物なども利用する雑食性です。

季節に応じて、次のようなものを食べます。

  • 植物の新芽や葉
  • 山菜やタケノコ
  • 昆虫
  • サワガニなどの小動物
  • ドングリなどの木の実
  • カキ、クリなどの果実
  • トウモロコシなどの農作物

秋には冬ごもりに備えて木の実などを多く食べます。山林内の餌が少ない年や時期には、食べ物を求めて行動範囲が広がり、人里へ出没する可能性が高まります。

ツキノワグマの主な痕跡

足跡

ツキノワグマの足跡には、次のような特徴があります。

  • 指の跡が5本ある
  • 指先に爪の跡が残ることがある
  • 前足の跡は横に広く見える
  • 後ろ足は人の裸足に似た細長い形になる
  • 成獣では10cm前後の大きな足跡が残ることがある

泥、砂、雪の上では、指や爪の跡が比較的分かりやすく残ります。

ただし、地面の状態によっては一部の指しか残らないことがあります。足跡だけで断定せず、爪痕、ふん、食べ跡、クマ棚なども合わせて確認します。

爪痕

木の幹に、3~5本程度の平行した爪痕が残ることがあります。

木から下りる際には、爪を立てて滑り下りるため、縦方向に長い傷が残る場合があります。

ただし、シカの角研ぎや、ほかの動物による樹皮の傷と似ることがあります。爪痕だけでツキノワグマと断定することはできません。

クマ棚

ツキノワグマが樹上で木の実や果実を食べる際、枝を折って自分の体の下へ集めることがあります。

その結果、木の上に枝葉がまとまった鳥の巣のようなものができます。これを「クマ棚」と呼びます。

クリ、ミズナラ、コナラ、カキなどの木で確認されることがあります。

木の下に新しい枝が落ちている、幹に爪痕がある、樹上に枝葉が集まっている場合は、クマが利用した可能性があります。

ふん

ツキノワグマのふんは、食べたものによって形や色が大きく変わります。

果実を多く食べた場合は、種が大量に含まれることがあります。木の実、植物、昆虫などが混ざる場合もあります。

ふんの形だけで判断することは困難です。新しいふん、足跡、食べ跡などを見つけた場合は、近くにクマがいる可能性を考え、速やかにその場から離れてください。

樹皮剝ぎ

スギやヒノキなどの樹皮を剝がし、その内側をかじることがあります。

樹皮が縦方向に大きく剝がれ、幹に歯形が残っている場合は、ツキノワグマによる「クマ剝ぎ」の可能性があります。

ツキノワグマによる主な被害

農地・果樹への被害

ツキノワグマは、果実や穀物など、栄養価の高い農作物を利用することがあります。

農地では、次のような被害が起こることがあります。

  • カキ、クリ、ブドウなどの食害
  • トウモロコシなどの食害
  • 果樹の枝折れ
  • 樹上へ登ることによる幹や枝の損傷
  • 収穫物保管庫への侵入
  • 廃棄野菜や収穫残さへの接近
  • 防護ネットや柵の破損
  • 農作業中の人との遭遇

果樹園はクマの被害を受けやすい場所の一つです。収穫後の果実、落果、廃棄する野菜なども放置しないようにします。

住宅周辺・生活環境への影響

住宅地周辺では、次のような状況が見られることがあります。

  • 庭のカキやクリなどを食べる
  • 放置された落果へ接近する
  • 生ごみや食品残さをあさる
  • コンポストへ接近する
  • 物置や収穫物保管庫へ侵入する
  • 河川、沢、藪などを通って住宅地へ入り込む
  • 飼料やペットフードへ接近する
  • 人や飼い犬と遭遇する

クマが人里で餌を得る経験を繰り返すと、同じ場所へ再び現れる可能性があります。

目撃しただけで追い払いを試みたり、写真を撮るために近づいたりしないでください。安全な場所へ避難した後、警察または市町村へ連絡します。

ツキノワグマへの対策

1.出没情報を確認する

山林、農地、河川敷などへ入る前に、県や市町村が公表している出没情報を確認します。

直近で目撃や痕跡が確認されている場所には、できるだけ近づかないようにします。

埼玉県では、ツキノワグマ出没マップなどで出没情報が公表されています。

2.餌になるものを取り除く

クマを住宅や農地へ引き寄せるものを減らします。

  • 生ごみを屋外に放置しない
  • ごみ容器や集積所のふたを確実に閉める
  • 落果をこまめに回収する
  • 収穫しない果実を木に残さない
  • 廃棄する野菜や果実を農地へ置かない
  • 収穫残さを適切に処理する
  • ペットフードや飼料を屋外に残さない
  • コンポストを適切に管理する
  • 収穫物保管庫を施錠する
  • ガソリンなど臭いの強い物質の保管場所に注意する

人が食べない果実や廃棄物でも、クマにとっては餌になります。

管理できないカキやクリなどの果樹については、枝の剪定や伐採も検討します。

3.隠れ場所と移動経路を減らす

山林や河川から住宅、学校、農地まで藪や草地が連続していると、クマが姿を隠したまま接近する可能性があります。

次のような場所を確認します。

  • 住宅や農地周辺の藪
  • 背の高い雑草
  • 河川や沢沿いの繁茂した植物
  • 管理されていない果樹園
  • 耕作放棄地
  • 山林と住宅地をつなぐ斜面林
  • 放置された資材や倒木

必要な範囲の草刈りや枝払いを行い、見通しを確保します。

見通しをよくすることで、人とクマが至近距離で突然遭遇する危険を減らす効果が期待できます。

4.農地や果樹園を防護する

被害が発生する果樹園や農地では、クマに対応した電気柵などを検討します。

設置する場合は、農地の一部だけでなく、侵入される可能性のある範囲を切れ目なく囲います。

電気柵では、次の点を継続して確認します。

  • 電線や支柱の破損
  • 草や枝の接触
  • 電圧の低下
  • 電源の入れ忘れ
  • 出入口の閉め忘れ
  • 地面の凹凸による隙間
  • 水路や道路との接続部分
  • クマが木や構造物を利用して越えられる場所

電気柵には専用の電源装置を使用し、危険表示や漏電対策など、法令と製品の使用方法に従って設置してください。

5.農作業や山林作業では単独行動を避ける

クマの生息地域や出没地域では、できるだけ複数人で行動します。

農作業や山林へ入る際は、次の点に注意します。

  • 出没情報を事前に確認する
  • 早朝や夕方の作業をできるだけ避ける
  • 熊鈴、笛、ラジオなどで人の存在を知らせる
  • 沢沿いや藪など見通しの悪い場所に注意する
  • 新しい足跡、ふん、爪痕を見つけたら引き返す
  • 食品やごみを持ち帰る
  • 頻繁に出没する場所では単独で作業しない
  • 山林へ頻繁に入る場合はクマ撃退スプレーの携行を検討する

熊鈴などは、クマと突然出会わないために人の存在を知らせる道具です。すでに近距離でクマと遭遇している場合は、大声や急な物音で驚かせないでください。

6.クマに遭遇した場合

クマを見つけた場合は、まず落ち着いて行動します。

  • 走って逃げない
  • 大声を出さない
  • 石や物を投げない
  • 写真を撮るために近づかない
  • クマの逃げ道をふさがない
  • クマに背を向けない
  • クマを見ながら、ゆっくり後退する
  • 建物や車へ安全に移動できる場合は避難する
  • 安全な場所へ移動してから警察や市町村へ連絡する

クマがこちらに気づいていない場合は、刺激しないよう静かに離れます。

逃げるクマを追いかけたり、追い払いを目的として近づいたりしないでください。

7.襲われそうになった場合

クマによる攻撃を完全に防げる方法はありません。

逃げられない状態で攻撃を受けそうになった場合は、両腕で顔面や頭部、首を守り、腹部を地面に向けて伏せるなど、重大なけがを減らす姿勢を取ります。

クマ撃退スプレーを携行している場合は、すぐに取り出せる場所に保管し、事前に使用方法や射程距離を確認しておく必要があります。

8.子グマに近づかない

子グマだけが見えている場合でも、近くに母グマがいる可能性があります。

母グマは子グマを守るため、攻撃的な行動を取る場合があります。

子グマへ近づく、写真を撮る、追いかける、保護しようとするなどの行動は避け、速やかにその場から離れてください。

9.捕獲や追い払いを自己判断で行わない

野生鳥獣の捕獲や殺傷は、適法な狩猟や許可を受けた捕獲などを除き、原則として禁止されています。

市販のわなを自己判断で設置したり、クマに近づいて追い払ったりしないでください。

生活圏への出没や農作物被害がある場合は、行政、警察、捕獲従事者などが連携して対応します。

目撃した場合は、住民自身が対応しようとせず、安全確保を優先してください。

イノシシやカモシカとの見分け方

暗い場所や離れた場所では、イノシシやニホンカモシカがツキノワグマと見間違われることがあります。目撃情報には、ほかの動物との誤認が含まれる可能性があります。

見分ける際は、次の点を確認します。

ツキノワグマ

  • 体全体が黒く見える
  • 丸い耳が目立つ
  • 尾は短く、ほとんど見えない
  • 胸に白い模様がある場合がある
  • 足跡は5本指
  • 木に爪痕やクマ棚を残す
  • 木へ登ることがある

イノシシ

  • 鼻先が前方へ長く伸びている
  • 耳は比較的小さい
  • 足跡は2本の蹄が中心となる
  • 鼻で地面を広く掘り返す
  • 体の前半部分が太く見える

ニホンカモシカ

  • 頭部に2本の角がある
  • 脚が比較的細長く見える
  • 灰色や黒褐色に見える
  • 足跡は2本の蹄が中心となる
  • 岩場や斜面に立っていることがある

姿を一瞬見ただけでは、正確に判断できないことがあります。

無理に近づいて確認せず、安全な場所から見た特徴、移動方向、大きさなどを記録してください。

相談するときに確認したいこと

ツキノワグマと思われる動物や痕跡を見つけた場合は、可能な範囲で次の情報を記録してください。

  • 発見した日時と場所
  • 動物の写真や動画
  • 頭数
  • 親子であったか
  • おおよその大きさ
  • 移動した方向
  • 人家や道路からの距離
  • 足跡、爪痕、ふんなどの状況
  • クマ棚や食べ跡の有無
  • 被害を受けた作物や果樹
  • 周辺にある生ごみ、落果、収穫残さ
  • 過去の出没状況
  • これまでに行った対策

目撃場所を正確に伝えられるよう、住所、目印、地図上の位置などを確認します。

ただし、写真撮影や痕跡確認のためにクマへ近づいたり、藪や山林へ入ったりする必要はありません。

現在も付近にクマがいる可能性がある場合は、けもの相談所より先に、安全な場所から警察または市町村へ連絡してください。

ツキノワグマか分からない場合

暗い場所や離れた場所では、ツキノワグマ、イノシシ、ニホンカモシカなどを見分けることが難しい場合があります。

けもの相談所では、写真、目撃状況、足跡、爪痕、ふん、食べ跡などを確認し、原因となる動物を整理します。

ただし、ツキノワグマの可能性がある場合は、動物種の特定よりも安全確保を優先します。現場へ戻ったり、痕跡を追ったりせず、安全な場所から関係機関へ連絡してくさい。